【訓練例】
・感覚運動訓練
構音訓練に入る前に、基盤となる口腔器官およびその周囲筋の運動訓練や呼吸訓練を行います。
頸部リラクゼーションおよび頸部・肩・胸郭ROM から始め、口唇・舌・頬の運動、副交感神経を優位にする腹式呼吸をセットで実施します。
咽頭・喉頭に緊張が見られる場合には、軟起声発声・あくびためいき法・アクセント法などを取り入れます。
過緊張が見られる場合にはバランスボール上での伏臥位を要求することもあります。
口唇・舌・頬の随意運動は、口唇や舌の運動が稚拙であったり、口腔顔面筋の低緊張により習慣的に下顎下制位をとり、舌が歯列の間に突出している場合や逆に舌の脱力が困難な場合にも効果的です。
構音に参加する器官は下顎・舌・口蓋帆・口唇が主なものです。
今、[ʃ i] を構音する場合、後続母音/i/ の構えであり/i/(狭母音)では顎の開きは小さくなります(/a/ 広母音では大きい)。
摩擦音/ʃ / は、舌と歯茎‐硬口蓋で狭めを作り(実際には喉頭でも狭めをつくる)、そこが構音点となります[2]。
舌筋は舌全体を動かす外舌筋と舌の形をかえる内舌筋から成っており、[ʃi] を構音する場合、各内舌筋が上下にカールしたり、平滑にするように働きます。
また外舌筋は、オトガイ舌筋がオトガイ方向へ舌を引くなどの作用があり、舌尖が歯茎-硬口蓋に接触しないようにサポートを行っている可能性があります。
口蓋帆(軟口蓋)は母音や鼻音(m, n, ɲ )以外の子音発声時には上咽頭後壁に向かって挙上し、口腔と鼻腔を分離します。
これを鼻咽腔閉鎖機能と呼びます。
鼻咽腔閉鎖の程度は/a/(広母音)では完全閉鎖ではなく、/i/(狭母音)などは、ほぼ完全に閉鎖します。母音が鼻音化すると音の強さや音色に変化が生じます。
口唇の形をつくるものは口輪筋で、口裂の閉鎖(閉口筋)、口唇の突出・丸めなどの働きがあります。
[ʃ i] の構音時のやや開口して、口角を外側に引く作用は笑筋の働きです[3][4]。
多少、器質性構音障害および運動障害性構音障害の範疇に話がおよびましたが、一つの音を産生するとき、上記のように各器官が協調しており、口唇・舌・頬の随意運動などの直接的な訓練と間接的に影響を及ぼすと考えられる訓練も取り入れています。
その一例として頭部挙上訓練[3] があります
この訓練は舌骨上筋群、喉頭挙上筋群の筋力強化による、嚥下機能の改善を目的とするものですが、舌骨上筋、舌骨下筋の中継点となっている舌骨は、舌の支持に働くほか、下顎の開閉や喉頭の挙上の運動に関与しています。
方法は、床に仰臥位になり頭部のみを挙上し自分のつま先を見ます。
持続時間とセット数は能力に合わせ決定します。注意事項として、すべり症がある場合は禁忌です。
常に側で頸部を支える準備をし、頚椎を痛めることのないように十分に注意をします。
ブローイング(ソフトブローイング)訓練は、鼻咽腔閉鎖機能不全のほか、呼気持続延長に効果があります。
ストローで水の入ったペットボトルを吹いたり、ティッシュペーパーをゆっくり吹き「できるだけ長く揺れるように」などと指示をします。吹き矢・吹き戻し・紙風船などを使用したブローイングはハードブローイングになりやすいですが、口唇の突出の訓練にもなり、制止せずに子どものモチベーションが保てるよう配慮します。
また、ディアドコキネシスは回数を数えたり、簡単な早口ことばなどのゲーム要素を取り入れています。
口唇閉鎖不全の改善には、木製の滅菌舌圧子(図5)を口唇で保持したり、上下顎切歯で挟み口唇の開閉運動などを行っています。
次回は、構音訓練の正しい構音操作・誤り音の治療法などについてお伝えする予定です。
参考文献
[2] Ray D.Kent / Charles Read, 音声の音響分析, 海文堂出版(株), 2006, 36p-41p.
[3] 藤島一郎, 脳卒中の摂食・嚥下障害, 医歯薬出版(株), 2002, 31p 33p-34p221p.
[4] 上條雍彦, 小口腔解剖学, (株)アナトーム社, 2002, 66p-71p 73p-76p 143p.
ベルアージュ 言語聴覚士 正原 勇治